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第三話 二人だけの宝物

Penulis: 空蝉ゆあん
last update Tanggal publikasi: 2025-08-19 02:04:42

 混ぜても

 溶けても

 揺れても

 僕達は一つにはなれない

 砕けても

 惚けても

 戸惑っても

 僕達は同じにはなれないんだ

 第三話 二人だけの宝物

 夏休みに入った僕に待っていたのは、単調な毎日だった。ライアの笑顔を見る事も出来ない。

 それだけで苦しくて、悲しくなってしまう。

 太陽の光を遮るように目を瞑ると、うっすらと淡い光がフィルターを通して溢れてくる。その度に、ため息を吐いてしまうんだ。

「眠いの?」

「分からない」

「苦しいの?」

「分からない」

 彼女の姿をした影が何度も質問を繰り返す。どんな答えを求めているのかを理解出来ずにいる僕は、水のように流されていった。

 現実も幻想も、必ず彼女が存在している。僕の中でライアの存在がいつの間にか大きくなっていた。

 自分でも気づかないくらいに。

 特別な色を放ちながら、僕との違いを明確に示唆していく。

「私の提案を受け入れてくれる?」

「……僕なんかが」

 最低限のものしか置かれていない僕の部屋は、彼女の匂いを纏いながら別物へと変化しようとしているのかもしれない。

 夕方になると遠くから始まりを告げる音が空を通して僕の元へと浸透していく。時間を確認するともうすぐ六時になる。

 ゆっくりしていたはずの一日はあっと言う間に夕闇に消えながら、僕の手を引いて離さない。

「行こう、彼女が待ってる」

 自分の声が無意識に旋律を奏でると、体に力を与えていく。どうするのか迷っていたはずなのに、僕は時間に追われるように支度をする。

 浴衣に着替えた自分の姿を見ていると、別人のように思えてしまう。着ているものが違うだけで、ここまで変わるのか。

「……行ってきます」

 僕が言った言葉がきっかけなら、望めば望む程に、手に入れる事が出来るのかもしれない。

 ひゅるひゅると夏の夜が始まろうとしている。その日だけは希望を抱く事が許されているみたいに感じた。

 こんな気持ちにさせてくれるのはライアだけだろう。彼女が僕の願いを形にしようとしてくれて、今日があるのだから——

 神社の境内についた僕は、大木に支えてもらいながら時間を潰している。神社は少し離れていて、境内の中に露店は一切存在しない。

 ライアはこの神社の事を話すと、ここを待ち合わせにしようと言った。

 僕はただそれを受け入れただけだ。

 人を待っている時間がここまで心地いいとは思わなかった。ドキドキする。

 彼女の浴衣姿を観れるのは勿論、いつもと違った空間で過ごす事が特別のように感じられる。

 こんな事、口が避けても言えない。言ってしまえば、この関係が崩れてしまうんじゃないかと恐れてしまう。

 自分一人なら、弱虫のままでいれた。孤独の中で生きる事を選択していたはずなのに、彼女を受け入れてしまったんだ。

 僕はもう昔の僕とは違う。別の色を纏いながら、新しい自分を確立させようとしている。それがどれほど大きい事なのか、ライアにとってどんな作品になってしまうのか、それは未知数。

「ヒズミくん、遅くなってごめんなさい」

 地面に向けていた視線が光を探すように、彼女の方へと向けられていく。

 そこにいるのは、いつも以上に綺麗なライアの姿がある。制服とは違って、大人の女性のようだ。

 化粧と着ているもので、ここまで変わるのかと実感する。

 彼女は下駄を履いている。慣れていない姿も可愛く見える。

「はぁはぁ。待ったよね」

 息を切らしながら、申し訳なさそうに言った。僕は彼女の呼吸が整える為の時間を用意する。こういう配慮は必要だろう。

「時間は僕達を待ってくれるから、大丈夫」

 ふっと微笑んでいる自分がいる。彼女の影響が僕に伝染しているようだった。

 僕の中に温かいものが流れ込んでくる。今まで経験のした事がない現象だ。

 少しの戸惑いは奥側に身を潜めている。ライアのコロコロと変わる表情を見ていると、全ての不安や見たくない感情は最初からなかったように、引っ込んでいく。

「学校以外で会うなんて、想像出来なかったから嬉しいな」

「……僕もだよ」

 ふふふと互いの顔を見合いながら、笑っている。二人を邪魔する者はどこにもいない。この空間は二人だけの宝物になっていく。

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